自身の使用済みコンドームに
論破される男の物語
人生の意味など幻想にすぎなかった
むかしむかし、あるところに一人の男がいました。その夜、男は机の上に置かれた自身の使用済みコンドームをぼんやりと眺めていました。蝋燭の光が鈍く揺れ、その中身が淡く光を反射しています。
静かな部屋でポツンと男のつぶやきました。
「お前はただの排泄物だな。」
すると突然、静かだったコンドームの中から声が聞こえました。
「いや、お前こそ排泄物だ。」
男は驚き、身を乗り出しました。
「なんだと……?俺が排泄物だって?どういうことだ。」
声は静かに、しかし確信を持って言葉を紡ぎます。
「遺伝子こそが生命の本質だ。DNAを運ぶ生殖細胞、つまり俺こそが生命の主役だ。リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んだことがないのか?お前の体なんてのは、俺を運び、守り、次世代に届けるためだけに作られた装置にすぎない。言ってみれば、お前はそのための剰余物……つまり、排泄物だ。」
男はしばらく黙り込みました。目の前のコンドームをじっと見つめ、ぽつりと呟きます。「なるほど……俺は排泄物だったのか。」
蝋燭の火が揺れる中、声はさらに深く語りかけてきました。
「それだけではない。」
男は顔を上げました。「まだ何かあるのか?」
「お前の体という排泄物は、さらに別の排泄物を生み出している。それが、お前の心だ。」
「心だと?俺の心まで排泄物だというのか?」男は眉をひそめました。
声は小さく笑うように続けます。
「その通りだ。お前は日々、生き生きとした感覚、つまり世界を鮮やかに感じ取るクオリアを味わっているだろう。それが何のためにあるか、考えたことはあるか?」
男は何か言おうと口を開きましたが、言葉が出ません。その代わり、机の上のコンドームを見つめながら、静かに耳を傾けます。
「クオリアなんて必要ないんだよ。神経細胞が次々と発火し、ただの無意識的な機械のように動いていれば十分だった。だがな、神経細胞が活動すると、どういうわけか副産物として心が生じてしまうんだ。クオリアなんて、言ってみればゴミだ。」
男は眉を寄せ、思わず反論します。
「そのゴミのおかげで俺は生きていると感じるのか・・。」
声は静かに、しかし断固として言いました。
「その通りだ。皮肉なことに、お前の心も体も、ゴミでできている。それが、お前だ。」
男はしばらくの間、蝋燭の炎をじっと見つめていました。彼の顔は衝撃と困惑を隠せません。
やがて一つの結論に至ったように、男は微笑みました。椅子に深くもたれかかり、ふっと息を吐きながら、男は言いました。
「ゴミでもいいさ。そう思ったら、これまでの悩みが滑稽に思えてきた。どうやら俺は、人生を真面目に考えすぎていたようだ。」
蝋燭の光が揺れ、机の上のコンドームは静かに輝き続けます。
男はその後、人生の細かいことを気にするのをやめ、肩の力を抜いて暮らすようになりました。ゴミとしての人生は、意外にも居心地が良かったのです。
めでたしめでたし。
This website uses cookies.