著者は、作家、ジャーナリスト。著書『言ってはいけない』などの、ミもフタもない(しかし重要&信ぴょう性のある)著書をたくさん書いている。本書からも「橘テイスト」が肉汁の如く滲(にじ)み出ており、味わい深い。
『スピリチュアルズ』というタイトルを見ると、「オカルト的な内容の本?」と誤解しそうだが、科学的データに忠実な良書である。
本書の内容をひとことで言うと「人格(パーソナリティ)は8つの要素で説明できる」。8要素とは、具体的には以下をさす。
- 内向的vs.外向的
- 楽観vs.悲観
- 同調性
- 共感力
- 堅実性(=信頼性の有無)
- 経験への開放性の有無(=面白いか、退屈か)
- 外見の良し悪し
- 知能の高低
著者の語り口は(比較的)やさしいものの、本書は高度な内容をあつかっており、登場するトピックは脳科学、心理学、遺伝学など多岐にわたる。聞きなれない科学用語がたくさん登場するため、とくに本書の後半は熟読を要した。
本書の結論は、以下の3点に集約される。
- 人格の大部分に遺伝や無意識が関与するため、本人の努力では(ほとんど)変えられない。
- まずは自分の人格(適・不適)を知ることが大事。
- 自分に合った環境を見つけ、その中で頑張ることで、成功するチャンスは最大化できる。
本書を読んで私は(よい意味で)「人生はあきらめが大事だ」と感じた。自分に合わない分野でがんばっても(おそらく)成功しない―――それは誰もが何となくは感じていることだろう。しかし、世の親や先生たちは、そういうことをハッキリ言ってくれない。実際は逆に「頑張ればだれにでも〇〇ができる」とか「才能は関係ない」などの無根拠な(おそらく本人も本気で信じていない)言葉が世の中にまかり通っている。そんな「ウソで固めた世の中」に冷水をバシャアと浴びせてくれる本書は、じつに痛快だ。
本書には常識に反するびっくりするような内容が少なくない。たとえば以下のようなものだ。
・無意識には知能がある(第1章)
・心理プロファイリングにより人間を操れる(第2章)
・同調圧力は「目に見えるもの」すら変形させる(第5章)
・共感の過剰により世界は分断されていく(第6章)
・努力は寿命を縮める(第7章)
具体的な内容は、ぜひ本書を読んで確かめてほしい。
一般人にはなじみの薄い科学論文の内容を本書のようにわかりやすくかみ砕いてくれるタイプの書き手は、日本には(比較的)少ない気がする。橘氏の書籍は、今後も注目していきたい。
余談だが、自分の人格を知るには、たとえば「16 personalities」という無料のオンライン性格診断テストを受けてみるのもよいと思う。
以下は、本書レビューのYoutube版です。