人生は運で決まる

遺伝の影響は世の中で考えられているよりも高い。私が読書中に出会った遺伝にかんする知見を以下に示す(%は遺伝の寄与度)[脚注]。
・攻撃性 40-50%
・政治信条 25%
・内向性と外向性 40-50%
・数学力 40%
・IQ 77%
・子供のやる気 43%
・統合失調症、自閉症、ADHD 80%
・第二言語の習得能力 71%
・論理的推論能力 70%
さらに、こうした遺伝の呪縛から逃れる能力の62%も遺伝で決まっているという研究データがある。
以上からもわかるように、学校などでよく言われる「誰でも努力すれば○○できる」という話は、ウソである(この嘘の良し悪しは、また別問題だが)。
同様に、世の中に蔓延する「自己責任神話」もウソである。この神話は、自分の人生が不幸なのはお前のせいなのだから、他人に助けをもとめるな、という文脈でよく使われる。
ちなみに、ある研究に含まれる被験者すべての遺伝子構成がまったく同じでも、環境条件が変われば、異なる遺伝率が算出される点には注意が必要である。さらに、研究に使用される母集団しだいでは、異なる遺伝率が算出されることにも留意する必要がある。
とはいえ、遺伝と環境の寄与率を正確に区別することよりも重要な論点がある。遺伝にせよ幼少期の環境にせよ、「本人には選べないのだから、本人に責任などあるはずがない」ということである。
ちなみに、こういうことが一番見過ごされがちなのが、アメリカと日本のようである。社会学者である宮台真司の著書『世界はどこから来て、どこへ行くのか』に、以下の記述がある。
<2007年に主要46カ国で調査したところ、「国は極貧者を助けるべきか」という問いに対し、完全同意とほぼ同意を合わせると、ほとんどの国が90パーセント前後の数値を示すのに対し、日本は60パーセントで最下位。完全同意だけを見ても、ほとんどの国が50パーセント前後の数値なのに対し、日本は15パーセントと圧倒的な最下位。
日本に次いで数値が低いのがアメリカは、完全同意とほぼ同意を合わせると70パーセント、完全同意が約30パーセント。>
人生は、運で決まる。成功者は運がいい。失敗者は運が悪い。それなら、誰かを尊敬したり軽蔑したりする理由など、本当はないはずである。あなたは宝くじに当たった人を尊敬するだろうか。外れた人を軽蔑するか。
他人や自分をやたらと責める必要など、ないのである。
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脚注
文中に上げたデータのソースを以下に記す。ほとんどは日本で出版されている書籍である。
・犯罪傾向の中でも、攻撃性にかんしては遺伝の影響が強く、その40-50%が遺伝で説明できる(『入門犯罪心理学(原田隆之著)』)
・政治的信条の25%は遺伝で決まる(『寝る脳は風邪をひかない(池谷裕二著)』)
・内向的または外交的な性格になるかどうかは、4~5割が遺伝で決まる(『QUIET(Susan Cain著)』)
・数学の得手・不得手の40%が遺伝で説明できる(『脳はすこぶる快楽主義(池谷裕二著)』)。
・IQの77%が遺伝で決まる(『脳はすこぶる快楽主義』)
・子供のやる気の43%は遺伝子で説明できる(『脳はすこぶる快楽主義』)
・人間の3割はMAOA遺伝子の活性が低いため、攻撃性が高くなる(『サイコパス(中の信子著)』)
・統合失調症、自閉症、ADHDの80%程度が遺伝によって説明される(『日本人の9割が知らない遺伝の話(安藤寿康)』)
・第二言語の習得能力にたいする遺伝の寄与率は71%(『脳はなにげに不公平(池谷裕二著)』)
・「どれくらい幸福を感じやすい性格か」に関する遺伝の寄与率は、身長および知能における遺伝の寄与率と同程度に高い(『Thinking Fast And Slow(Daniel Kahneman著)』)。
・論理的推論能力の遺伝率は約70%(『言ってはいけない(橘玲著)』)
・統合失調症の遺伝率は、躁うつ病と並んで高く、80%を超えている。身長の遺伝率が約66%、体重の遺伝率が74%であることを考えると、この数値はとても高い(『言ってはいけない(橘玲著)』)
・「遺伝の呪縛からいかに逃れられるか」という能力の62%は、遺伝で決まっている(『脳はなにげに不公平(池谷裕二著)』)。