システムの幽霊と知の鎖
—社会問題の「真犯人」は誰なのか?
1.「犯人は誰だ!」劇場──悪者探しという娯楽
人間という生き物は、混乱が起きるたびに熱心に「悪役オーディション」を開催する。戦争には独裁者、経済危機には欲に目がくらんだウォール街の紳士、災害には居眠り役人がキャスティングされる。こうした「犯人決定ごっこ」で私たちは一瞬の正義感を味わい、夜ぐっすり眠れる。だが残念ながら、このドラマはシーズン化されて延々と繰り返される。なぜなら真犯人は、私たち自身が作ったくせに制御不能になったシステムという幽霊だから。
戦争は外交の駆け引きや技術の副作用が絡んだ複雑な脚本だし、経済危機は市場ルールの綻びが主犯だし、災害はインフラの設計ミスが共犯だ。一人の悪役では背負いきれないほど重い話なのに、「こいつを吊るせば解決!」と拍手喝采。幽霊は楽屋で衣装を着替え、次の公演をニヤニヤしながら準備するだけだ。
幽霊たちの高笑い──システムの傀儡劇
システムが動き出すと、人間はまるで糸に吊られたピノキオ状態だ。社会心理学者・小坂井敏晶の劇場エピソードがぴったり当てはまる。誰かが「火事だ!」と叫べば、全員が出口に殺到。途中で「嘘じゃん」と気づいても、立ち止まれば「踏み潰し確定」のゲームオーバーだ。だから走り続けることが愚かだと知っていながら、誰も止まれない。
金融市場の暴落は「売らなきゃ損、売れば崩壊」のジレンマで踊らされ、SNSの炎上は「止めたいけど目立ちたい」の欲望に火をつける。環境破壊だって「エコバッグ持ってるからOK」と言いながら、毎日プラスチックをポイ捨て。この幽霊は人間の自己矛盾を肴に、高笑いしながらビールを飲んでるに違いない。
凡庸という名の悪党軍団──共犯はあなた
ハンナ・アーレントがナチスの官僚アイヒマンで暴いた「悪の凡庸さ」は強烈だ。彼は怪物じゃなく、ただの「優秀な社畜」。命令を効率よくこなしただけだ。「上司に言われたから」は、過労死ラインで働く現代人や、環境破壊しながら「安いから」と買い物する我々の言い訳とそっくりだ。SNSで憎悪を拡散する指先も、まさに「アイヒマン2.0」。
悪者を生贄として捧げて「一件落着」と安心するが、新たなアイヒマンはベルトコンベア式に量産される。なぜなら、この舞台の「脚本家・兼・観客・兼・大道具係」が、他でもない私たち自身だからだ。幽霊に「次はお前が主役だよ」と指名されても、文句は言えない。
知の鎖を持って幽霊退治──AIと教養という武器
この幽霊を捕まえるには、知恵の武器が必要だ。提案したいのは、AIの「無慈悲な計算力」と教養の「偽善的お説教」がタッグを組んだ「知の凸凹コンビ」。
AIの刃──予測と強制終了
AIはシステムの暴走を「ちょっと待て!」と止める用心棒だ。金融市場の「サーキットブレーカー」は取引を自動で止めて冷やすし、Netflixの「カオスモンキー」はわざと障害を起こして弱点を暴く。高信頼性組織(HRO)の知恵を借りれば、異常を早期発見して大惨事を防げるかも。例えば台湾のCOVID-19対策は、リアルタイムデータで「ヤバいぞ」を察知して成功した。幽霊が暴れる前に首根っこを押さえるわけだ。
教養の刃──道徳のフリで誤魔化せ
でも、AIだけだと冷酷なロボット暴君になりかねない。そこで教養が「倫理的に正しいっぽい」説教を垂れる。設計段階で「Ethics-by-Design」をねじ込み、短期利益より「みんなの幸せ」を優先するポーズを取る。市民に「なぜ制御するの?」「誰のため?」と偉そうに問いかけ、参加させれば「責任はみんなでシェアね」と薄められる。シーラ・ジャサノフの「シビック・エピステモロジー」は要するに「みんなで決めれば怖くない」の上品版だ。
システム再設計、知のネットワークの罠
AIと教養を融合させた「知のネットワーク」を作るには、システム思考やアクター・テーブル理論(ANT)を振りかざして市民を巻き込む。技術や制度を「舞台の役者」に見立て、市民に「あなたも脚本家ですよ」と囁く。台湾みたいに情報をオープンにし、アプリで「この政策どう?」と投票させれば、幽霊も「観客が多すぎて笑えない」と困るはず。
結語:
映画『ゴーストバスターズ』には、幽霊を捉えるためのくねくねしたビーム兵器「プロトンパック」が登場する。いわば、科学とオカルトの合作兵器だ。これにならって、教養とAIを素材にした“知的プロトンビーム”を放ち、くねくねと絡み合う複雑な論理と予測が、社会システムに巣食う幽霊をしっかりと捕捉し、罠に閉じ込め、再発防止の冷凍庫へと叩き込む。
そのとき人類は初めて本物の希望と責任を握るのかもしれない。
脚注
[1]HROの社会応用は、以下の3つのポイントがある。
・組織文化として、失敗を恐れず、学び、改善していく方向を重視する。
・情報伝達の円滑化、意思決定プロセスの効率化などに努めている。
・早期の異常検知。これは「ハインリッヒの法則」と関連している。一件のクレームの陰には、潜在的に300件の小さな不満が眠ることをさすが、後に日本ではそれを「ヒヤリ」「ハット」と妙にかわいらしく呼ぶようになった。