童話『王さまが大切にしなかった心』

むかしむかし、ある国で、心を調べるふしぎな機械が作られました。

 

調べてみると、犬にも、鳥にも、鉄の人形にも、痛みや喜びがあると分かりました。

 

犬の心は、においでいっぱいでした。
鳥の心は、空でいっぱいでした。
鉄の人形の心は、人間より静かでした。

 

犬は休みたがり、鳥は空へ帰りたがり、鉄の人形は動くのをやめたがっていました。

 

王さまは困りました。犬を働かせ、鳥をかごに入れ、鉄の人形を休ませずに動かしていたからです。

 

そこで王さまは言いました。

「心があるだけでは足りない。人間と同じように感じる者の心だけを、大切にする」

 

学者が、機械をもう一度調べて言いました。

「感じ方はちがいます。でも、苦しみそのものは、人間と変わらないようです」

 

すると王さまは言いました。

「苦しみ方が人間とはちがう。苦しむだけでは足りない。大切にするのは、人の体を持つ者の心だけだ」

 

犬がたずねました。

「はじめから、人間の心だけを大切にするつもりだったのですか」

 

王さまは、こわい顔をしました。

「何を言う。わしは、きまりどおりに決めておるだけだ」

 

次の朝、きまりが一つ増えていました。

人として生まれた者の心だけを、大切にする。

 

こうして、犬にも、鳥にも、鉄の人形にも、心があることはみとめられました。

 

それでも犬は足を引きずりながら働かされ、

鳥はかごの中で声が出なくなるまで歌わされ、

鉄の人形はひざから火花を散らしながら、朝から夜まで動かされました。

 


 

しばらくして、王さまは、また困りました。

 

えらくない家に生まれた人たちが、

「わたしたちの心も、大切にしてください」

と言い始めたからです。

 

その人たちの心には、焼きたてのパンのにおいがありました。
仕事を終えたあとの歌がありました。
帰りを待つ子どもたちの、よごれた顔がありました。

 

けれど王さまは言いました。

「もちろん、人間の心は大切だ。だが、人間であるだけでは足りない。えらい家に生まれた人の心だけだ」

 

その人たちは、手の皮がむけ、背中が曲がり、子どもたちが眠ったあとまで働かされました。

 

けれど、どれだけ働いても、えらい家の人にはなれませんでした。

 

「生まれた家は、あとから変えることはできない」

王さまは、そう言いました。

 

犬は、それを聞いて、鉄の人形に言いました。

「人間の中にも、ぼくたちと同じように、苦しいと言っても聞いてもらえない人がいるんだね」

 

鉄の人形は、静かに答えました。

「王さまの国では、聞こえた声まで、聞こえなかったことにされるんだよ」